大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

明石簡易裁判所 昭和45年(ハ)36号 判決

原告 筧瀬次郎

右訴訟代理人弁護士 西村忠行

被告 石井長三

右訴訟代理人弁護士 柳瀬兼助

主文

被告は、原告に対し、別紙第一目録(イ)記載の土地について所有権移転登記手続をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

1、当事者の求めた裁判

原告

本位的請求として主文同旨の判決

予備的請求として被告は、訴外石井一弘に対し、別紙第一目録(イ)記載の土地について贈与を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

被告

原告の請求(本位的、予備的のいずれについても)を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決

2、請求原因

一、被告は別紙第一目録(イ)、(ロ)(以下本件土地という)、および第二目録(イ)、(ロ)記載の各農地を所有していたが昭和三八年四月頃実弟の訴外石井一弘に贈与した。

二、原告は、右贈与前から右農地のすべてにつき賃借人として耕作していたが右同年一二月頃右石井一弘との間に原告が別紙第二目録の農地について有する賃借権を放棄し、その代償として本件土地の所有権を譲り受ける旨の約定が成立した。

≪以下事実省略≫

理由

1、本件土地および別紙目録第二の土地がもと被告の所有であり、原告においてこれを賃借のうえ耕作していたこと、被告が右各土地を昭和三八年四月頃実弟である訴外石井一弘に贈与したことは当事者間に争いがない。

2、≪証拠省略≫によると請求原因二の原告、石井一弘間の約定の成立が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

3、≪証拠省略≫から本件土地につき原告と訴外石井一弘が協力して原、被告双方名義を以て兵庫県知事に対し農地法三条による許可申請手続をなし、これに対し昭和四一年二月五日右県知事から許可のなされたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

被告は、右許可は被告名義を偽造した許可申請に対しなされたものであるから効力を生じないと主張する。

しかし、本件土地、および別紙第二各目録の土地につき被告から訴外石井一弘に贈与されたことは争いがなく、かつ右第二目録の土地については被告から右一弘に権利証、印鑑等を交付し所有権移転登記をなさしめている事実(≪証拠省略≫から認められる)をあわせ考えると被告は、右一弘に本件土地についても県知事に対する許可申請、および移転登記義務を負担し、そのために必要な手続の履践を右一弘に委ねていたものとみるのが相当である。そうとすれば本件土地についての前記許可申請は無権限な者によってなされたものとは云い難く、従ってこれに対して与えられた県知事の許可もその効力に何ら消長を来すものではない。

なお、右許可は、所有権の移転に直接でない原告と被告に対し与えられたものであるけれどもそれだけの理由でその効力が生じないとは云い難い。

そこで、右土地につき原告は所有権を取得したものと云うべきである。

4、≪証拠省略≫から右石井一弘が本件土地のうち(イ)の土地につき同人を経由せずに被告から原告に所有権移転登記がなされることに同意していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

5、よって、原告の被告に対する本件土地のうち(イ)につき所有権移転登記手続を求める本位的請求はこれを認容すべきであり訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 黒沢孝之)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例